2012年12月16日日曜日

仏独共同出資のテレビ局アルテ、日本のラバー界を取り上げる

 久し振りにウェブログを書く運びとなったのは、 (まだ完全には終わっていませんが) 大きなタスクを終えて時間的な余裕ができ、なおかつこのネタが Twitter では書き切れなさそうだと思ったからです。日付はこのウェブログの慣習で日曜日に合わせていますが、実際にはその翌日以降に書いたものです。見栄えだけよくしても意味がなさそうな…… (今頃悟る)

 さて、今回はちょっとアダルトな内容です。フランスとドイツの共同出資で設立されたテレビ局、アルテ (Arte) の番組「トラックス (TRACKS) 」で、日本のラバー愛好界が取り上げられ、その筋では話題になっております。ただ、ボクが見る限りこの番組は「動物モチーフのラバー = ファーリー (furry) 」というバイアスが掛かっているように感じたので、もう少し掘り下げてみることにしました。

http://www.arte.tv/de/die-rubber-furries-in-hochglaenzenden-latex-outfits-ihrer-leidenschaft/7075772.html

 このルポルタージュを書いたのはジュリエ・テラソン (Julie Terrasson) さんというおそらくフランスの方ですが、本局でドイツ語に訳されているので、フランス語はちょっとわからないけどドイツ語なら…… (いや、自信はないけど……)

Dank ihrer handgefertigten Latex-Anzüge entfliehen die Rubber Furries in ihre Traumwelt und spielen „tierisch verrückter Bauernhof“. Doch im Latex-Zeitalter kann man die anthropomorphen Wesen nun endlich auch zum Leben erwecken. Bei den Gummi-Fetischisten wird das Tier zur Bondage-Domina.
Der tierische Fetisch schwappt gerade nach Europa, hat seinen Ursprung allerdings in Japan. Hier, in Tokio, leben Wanco und Karin Kariwanz, zwei der weltweit ersten Rubber Furries. Wanco, Japanisch für “Wauwau“, sieht aus wie Scooby-Doo und ist Schriftsteller. Karin, das Wesen mit dem Nemo-Fischkopf, ist Werberegisseurin. Inspiriert von den Mangas aus ihrer Kindheit, fertigen die beiden ihre Outfits in Eigenregie an.

Karin und ihr vierbeiniger Freund Wanco bringen sich selbst das Designer-Handwerk bei. Sie kaufen Latex-Blätter, schneiden sie zu und kleben sie dann zu Kostümen zusammen. Innerhalb von zehn Jahren hat das Kariwanz-Duo so etwa fünfzig Outfits entworfen, und natürlich ist keins davon verkäuflich.

 ハンドメイドのラテックススーツの力を借りて、ラバー・ファーリーズ (ラバー好きのケモナー、とでも訳しておきます) は彼らの夢の世界へと遁走し、「獣性の農場」で遊ぶ。ラテックスの時代において、人は遂に擬人化的行為 (ここでは動物のような振る舞いをすること) を呼び起こすことができるのだ。ゴム・フェティシストらによって動物は、ボンテージの王国 (dominus) へと変化する。

 動物性フェチ (ここではファーリーないしファーリー・ファンダム (furry fandom) の言い換え) は特にヨーロッパに広がっているが、その源泉はやはり日本にある。ここ、東京に、カリン (さん、以後原文になくとも敬称をつけます) とわんこさんが住んでいる。二人は世界的に見て筆頭たるラバー・ファーリーズだ。スクービー・ドゥー (Scooby Doo, アメリカのテレビアニメで、同名の犬が主人公) のような見た目の、日本語で「わんちゃん (ドイツ語で「わんちゃん」は「ヴァウヴァウ (Wauwau) 」と言います) 」を意味するわんこさんは、作家である。オレンジ・クラウンフィッシュ (『ファインディング・ニモ』の主人公の魚) の頭部を模したカリンさんは、広告ディレクターである。子供の頃に読んでいた漫画に触発されて、二人は作業場 (Eigenregie) で自分たちのアウトフィット (ここではラテックス・スーツ、あるいはラバー・スーツ) を作り上げる。

 カリンさんとその四つ脚の友、わんこさんは、デザイン工房にて技術を高めている。彼らはラテックスのシートを買い、裁断し、貼り合わせ、コスチュームに仕立て上げる。ここ十年の間に、カリわんズの二人はおよそ五十ものアウトフィットを創作してきたが、もちろん売り出すために作ったものは一つもない。

 さて、ここまで訳しておいてタイトルの紹介をするのですが、放映前 (12月15日以前) にサイトを閲覧した際にはちゃんと原題の「慾情のラテックス・アウトフィットの先鋒――ラバー・ファーリー (Die Rubber Furries in hochglaenzenden Latex-Outfits ihrer Leidenschaft) 」になっていたはずなのに、いま再閲覧してみたところ「プラスティック・イズ・ファンタスティック (Plastic Is Fantastic) 」という味気の無いタイトルにいつの間にか変わっていました。なぜだろう……?

 それはさておき、続きを訳していきましょう。

"Beim einem Internet-Chat habe ich mir den Nickname Wauwau gegeben. Karin und ich sind ins Gespräch gekommen und haben uns dann sehr schnell für abends verabredet. Und damit sie mich erkennt, habe ich mich als Hund verkleidet."
"Vor allem, wenn man eine Maske trägt. Man fühlt sich gleich viel besser. Das Herz klopft nicht mehr bis zum Hals, man ist nicht mehr so gestresst, viel gelassener. Sie ist ein Schutz."
Der nächste Verwandte des Rubber Furry ist natürlich der Furry. Zu Zigtausenden hüllen sich seine Vertreter weltweit in Pelz, um ihre tierischen Instinkte zu wecken. Da lässt auch die nächste Spezies nicht lange auf sich warten. Die Furverts - eine Kombination aus Furry und pervert – leben ihre sexuellen Triebe aus, sobald sie im Tieranzug stecken.
Als bisherige Krönung der Schöpfung erblickt Anfang des einundzwanzigsten Jahrhunderts der Rubber Furry - eine Kreuzung aus SM-Fetischist und Furvert -  das Licht der Welt.

 「インターネットのチャットで自分に「わんこ」という名前をつけたのですが、僕 (一人称が違っていたらごめんなさい) とカリンさんがそこでの会話でその後すぐ夕方に (dann sehr schnell für abends) 会うことになって、彼女に分かりやすいよう、犬の恰好をしたのです。」
「とりわけ、マスクを着けた者は、より魅力的に見えます。心の鼓動が首元まで迫っても心臓が飛び出るようなこともなければ (Das Herz klopft nicht mehr bis zum Hals) 、ストレスにはならず逆にもっとリラックスする。マスクは安全装置 (Schutz) なのです。」

 ラバー・ファーリーはファーリーの最たる近縁種であることはお分かりの通りであろう。世界中の何千人もの人 (Zigtausenden, ここではファーリーズのこと) が、獣性を開放すべく同じように毛皮で身を包んでいる。それはまるで、次に自分が生まれるべき動物種での生 (die nächste Spezies) が待ち切れないのかのように。ファーヴァート (furvert) ――ファーリーとパーヴァート (pervert, 変態) の合成語である――たちは、動物着ぐるみに身を包み、彼らの性的な慾動を表現する。

 これまでにおける創造のクライマックス (Krönung der Schöpfung, 直訳すると「創造の戴冠」) として、二十一世紀初頭において、ラバー・ファーリー――SMフェティシストとファーヴァートの交点――が誕生した (das Licht der Welt erblicken, この世の光を見る)

 賢明な読者様ならば……という偉そうな前書きはナシ! として、インタビューの内容と、解説の内容がどうもずれている気が致します。《 Zu Zigtausenden hüllen sich... 》のくだりは、もしかしたらそうなのかもしれませんが、ファーリーズの創作活動に限って言っても描画や音楽演奏、ストーリー (ライトノベルなど) の執筆なども含まれますから、それがすべてではないことも確かなことです。そして……そもそも、カリわんズのお二方は「ファーヴァート」なのか? という点についても、 (第三者の目からすると) 疑問に思うところがあります。

 次にサエボーグさんへのインタビューを訳していきます。

Bei der Künstlerin Saeborg paart sich der Rubber Furry mit Aktivismus. In einer Galerie in Tokio präsentiert sie an diesem Abend ihre neueste Kreation “Slaughterhouse 6“ – Schlachthaus 6. Mit ihrem Playmobil-Bauernhof aus Latex will Saeborg die Ausbeutung der Frau anprangern. Für sie sitzen Kuh, Bäuerin und Schäfchen im selben Boot.

"Ich bin sehr wütend darüber, dass Randgruppen oft stark diskriminiert werden. Dabei sind diese Leute Vorreiter. Ich verabscheue Menschen, die andere danach beurteilen, ob sie in der Gesellschaft oben oder unten stehen, stark oder schwach sind. Ich hasse diese Mentalität, und alle, die sie unterstützen. Deshalb habe ich angefangen, Tierkostüme zu produzieren."

Wenn Saeborg also ihre Schäflein mit Stacheldraht umzäunt, hält sie damit einer japanischen Gesellschaft den Spiegel vor, die alle Menschen in Schubladen steckt. Saeborg stellt ihre tierischen Outfits seit inzwischen vier Jahren selbst her.

"Bei meinem Kostüm mit den kopulierenden Pudeln sieht man auf den ersten Blick zwei total süße Haustiere, so niedlich wie eine Barbie. Sie sind so süß, dass sie wie Spielzeug aussehen. Aber in Wirklichkeit vögeln sie, weil sie eben lebendige Wesen sind. Wenn man Weibchen und Männchen zugleich verkörpert, fallen geschlechtsspezifische Unterschiede weg, es gibt die Unterscheidung Mann-Frau nicht mehr. Und man kann mich endlich nicht mehr in eine Geschlechterkategorie einsperren."

 女流アーティスト、サエボーグさんはラバー・ファーリーとアクティヴィズム (ここでは活動家の意) を兼ね備える。東京のとあるギャラリーで、彼女は今夕、彼女の最新作「Slaughterhouse 6 (ドイツ語で言えば、シュラハトハウス ゼクス (Schlachthaus 6) ) 」を開園 (上演) する。彼女のラテックスでできた移動家畜園 (移動式農場) によって、サエボーグさんは女性を食いものにすること (die Ausbeutung der Frau, 女性の搾取) を批判しようとしている。彼女のために、乳牛、女性農家、そして仔羊が一堂に会する (im selben Boot sitzen)

 「私は、社会的に疎外された人たち (端の (Rand) 集団 (Gruppe) ) がしばしば強く差別されていることをとても腹立たしく思っています。その点で言えば、ここにいる人たちはパイオニア (先導者) なんです。私は、他人のことを、その人が社会的に (地位が) 上か下か、 (権力が) 強いか弱いかを基準にして判断するような人々を忌み嫌っています。私はこうしたメンタリティ (精神構造) 、そして彼ら (ここではおそらく、改善すべき日本社会の慣習) を支えている総てのものに対して嫌悪感を覚えます。だから私はアニマルコスチュームを作ることを始めたのです。」

 サエボーグさんはまた、彼女の仔羊を有刺鉄線の塀で囲うことを、人はみな型に嵌められている (in Schubladen stecken, 引き出しに仕舞う) という、日本社会の映し鏡 (インタビューでは「縮図」と仰っていました) を批判することにもなるだろうと考えている (余談: この文が一番文法的に難しいです。上手な訳がありましたら教えてくださいorz)サエボーグさんはさしあたりここ五年間アニマルコスチュームを手掛け続けている。

 「私が手掛けた交尾している二匹のプードルのコスチュームについて、人はその二匹が、バービー人形と同じくらい、本当にかわいいペットだなあという第一印象を持ちます。二匹はとても可愛くて、おもちゃのようにも見えます。だけど実際には彼らは交尾をしているんですね、彼らもまず生き物ですから。女性と男性を同時に具現化するとき、性の違い (geschlechtsspezifische Unterschiede, 性種の差異) が無くなり、そこには男女の区別が消滅します。そして最終的には私を一つジェンダーの括り (Geschlechterkategorie, 性のカテゴリー) に閉じ込められないものにすることができるのです。」

 翻訳の間違いに気がつきましたら、是非コメント欄でご指南くださると嬉しいです。実はここまでのテキストは、実際に放映された約10分の番組の中でもそのままの形で出て来ているので、ここでボクの抱いた疑問点をもう一度書きます。「ラバー」と「ケモノ (Furry) 」には全く関連性がないといえばそれは誤りなので、どう表現すればよいのか今も考えあぐねるところがありますが、少なくとも「動物モチーフのラバー・フェティシズム」を直接的に「ファーリー」へと結び付けるのは議論の跳躍だと思いました。おそらく、この番組のディレクターははじめからこの答えを用意していたのだと考えますが、もし、インタビューを受けた方々に対して「あなたはファーリー (ケモナー) ですか?」という質問がなかった場合は、なおさら悪質な報道だったと言わざるを得ないでしょう。

 最後に、番組ではフェティッシュファッション専門サイト、フェティッシュスタイル (Fetish-Style.info) の管理者・編集者: latexcatsuitさんへのインタビューもあるのですが、筆者はドイツ語のリスニング能力には滅法乏しいため、独文のディクテーションと和訳を行うのは難しい……力及ばず、申し訳御座いません。

【今回は動画の紹介を省略します】



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